tascoTitanのブログ

最高のカスタムVSR-10を目指して

世界最高レベルの競技用ライフルが、残念なストックに載っていると当たらなくなる!「KING CRAFT RIFLE様」の記事から

f:id:tascoTitan:20191025153014j:plain

超絶、とにかく超絶。こんな超絶Anschütz は見たことがない。

Barcelona Olympicで銅メダルに輝いた木場良平選手のアンシュッツ 1813 Rifleは、超絶完成度で作られていた。木場選手のANS1813は、ドイツナショナルチームに分配される10丁の内の1丁。最も完成度の高い特注品アンシュッツは、ワルターゲーマンを通じて体育学校が横取りした。一般流通品とは隔絶の完成度だった。

今回、ベディング依頼を受けたAnschütz 54.30も、木場選手のANS1813と変わらない超絶完成度だった。このANS54.30は、1000ヤードパルママッチ日本代表選手(○○在住)のライフルである。1度見てもらいたいとの事で、ご本人がキングクラフトまで持参された。

「兎に角、当たらないのです。ヨシで引いて10点タッチ。10点センターに中々入らない」とのこと。
………………………………

ご本人様の訴えを聞き、早速、各部品の検査を開始する。銃身、ボルト、薬室、機関部、ストックの順で部品精度を調べる。すると、超絶精度で完成していることが判明した。

1番目に、銃身腔内検査(Bore Diameter & Groove Diameter Check)から開始する。銃身山径ゲージを銃口へ、ソォ-と挿入する。すると極小グルーピングになる山径(Bore Diameter) 0.218inchより僅かに小さく作られていた。谷径計測(Groove Diameter Check)は、特殊なメタルを坩堝(るつぼ)で溶かし銃口へ流し込む。抜き取ったメタル金型をマイクロメーターで実測する。手間と時間の掛かる検査なので、今回は省略した。省略した理由は、山径(Bore Diameter)がSAAMI規格より小さい時、当然、谷径も小さく作られている。山径谷径の関係は、これまで、1000本を超える銃身交換を行なった経験から判明した。

2番目に、ロッキングラグとレシーバー ロッキング リセスのカラー検査(Bolt Locking lug & Receiver locking recess Color Check)をする。鉛丹を塗り、カラーチェックで当たりを検査する。すると、お互いのラグは、シッカリ嵌合しているのが目視でハッキリ分かる。このロッキングラグの接触面は、少し調整すれば100%完璧に面接触する。しかし、ヘッドスペースが関係するので、完成品ライフルは、下手にイジれない。

 

f:id:tascoTitan:20191025153316j:plain

写真はボルトクリアランス検査。ボルトボディにダイアルゲージをあて、ダイアル針をゼロにする。」

f:id:tascoTitan:20191025153214j:plain

上下方向のボルトクリアランス検査。ボルト後端を下から持ち上げる。ダイアルゲージの針は止まったまま。上下方向クリアランスは0mm。最高のアンシュッツだった。」

 

3番目に、ボルトクリアランス(Bolt Body & Frame inside clearance)を検査する。ボルト外径と機関部内径のクリアランスは上下ゼロ。左右で0.02mm(20ミクロン)だった。市販された多くのANS1913やANS2013を見てきて言えることは、完成度の高い一般流通物で0.03mm(30ミクロン)のクリアランスがある。グルーピングの悪いアンシュッツ1913や2013の場合、0.15mm(150ミクロン)以上のクリアランスだった。このクリアランスは全然ダメダメレベルで当たらない。ボルトクリアランスの大きいガタガタ機関部は銃身交換しても当たらなかった。もし、ガタガタ機関部を極小グルーピングにするには、機関部内径ピッタリにボルトを作り直すこと。機関部内径ピッタリにボルトを作り直せば極小グルーピングになる。件の54.30は、完璧なボルトクリアランスだった。ここまでクリアランスを詰めたアンシュッツは、今まで日本に来なかった。これならBleikerのクリアランスと、さほど変わらない。…しかし、ご本人様は、サッパリ当たらないと仰る。

f:id:tascoTitan:20191025153132j:plain左右方向のボルトクリアランス検査を行なう。機関部を横向きにし、ダイアル針をゼロセッティングする。」
f:id:tascoTitan:20191025153248j:plain
ボルト後端を下から持ち上げる。ダイアルゲージの針は僅かに動く。左右方向のボルトクリアランスは片側0.01mm(10ミクロン)。反対側も0.01mm動く。左右合計で0.02mm(20ミクロン)のクリアランス。これならスイス製と勝負できる。」

 

4番目に、ヘッドスペース検査(Headspace Check)をする。ANS54.30は、これまでのアンシュッツ1913や2013と違い、ボルトボディとロッキングラグの間に3.0mm厚のリングが挟んである。このリングはヘッドスペースを自由自在に調整するリング。アンシュッツ社では、厚みの違う5種類のリングが用意されていると聞いている。ところが、アンシュッツ社からのアナウンスでは「ヘッドスペースリングは、出荷時に絶妙な調整を行なっているので、組み込まれたリング以外に厚みの違うリングは販売しない」とのこと。22口径はヘッドスペースの調整次第で極小グルーピングになる。極小グルーピングを示すスウィートスポットが存在する事を多くの人は知らない。早速、件の54.30のヘッドスペースを検査する。これまた驚いたことに、オリンピック チャンピオンと同じヘッドスペースに調整済みだった。一般流通物のアンシュッツは、こんなんじゃない。がばがばヘッドスペースの、全然ダメでしょうレベル。しかし、持ち込まれたANS54.30は、絶対に極小グルーピングになるヘッドスペースだった。…しかし、ご本人様は、サッパリ当たらないと仰る。因みに、ブライカーはヘッドスペース調整ができない。何故なら、フレーム薬室なので銃身位置が変更できない。

5番目に、薬室検査(Chamber check)をする。近年のcal.22 rim fire long rifleの薬室はテーパー形状が流行りだ。特にBleikerの薬室は、半分が機関部に作られている。それも、極端なテーパー形状なのだ。早速、件の54.30を検査する。すると薬室形状もBleikerと同じく、テーパー形状をしている。更に驚いたことにBleiker薬室より小さく作られているのだ。これは、1913や2013とは全く違う薬室形状なのだ。また、ブライカーのリード角度は2度。アンシュッツのリード角度は30分。ブライカーは鋭角なリード角度。対するアンシュッツは緩やかなリード角度になっている。国際大会で最も多く600点を記録したアンシュッツのリード角度は、ANS54.30にも継承されていた。これなら絶対に極小グルーピングになる。…しかし、ご本人様は、サッパリ当たらないと仰る。
………………………………

ここまで検査して、何処も悪い所など存在しない。悪いどころか、こんな超絶精度のアンシュッツなど、絶対、日本に存在しない。こんな凄いアンシュッツにお目に掛かるのは、バルセロナ オリンピックの木場選手以来、2度目だ。もしも、販売される全てのAnschütz 54.30が、この精度で製造されているならば、ベディング加工するだけでスイス製以上の極小グルーピングになる。それに、Anschütz 54.30ならボルトロッキングラグも折れない。…にもかかわらず、ご本人様はサッパリ当たらないと仰るばかり。いったい何が悪さをしているのだろうか? 更に検査は続く。

6番目に、ストック検査(Stock Check)をする。ストック中央に打ち込んであるRecoil lugの検査から始める。リコイルラグは、発射の反動をストックに伝達する重要な部品。件の54.30のリコイルラグも1913と同じく、プレサイスストックである。なので、5mmピンがアルミに打ち込んである。5mmピンで作られたリコイルラグは、Action リコイルラグ溝より0.015mm痩せていた。まあ、こんなモンでしょう。次に、リコイルラグの高さを検査する。Action溝にリコイルラグ上部は接触しておらず、僅かな隙間で逃してある。普通に良く出来た5mmピンのリコイルラグだった。

7番目に、ボトミング検査(Bottoming Check)を行う。するとフロントAction screwが底突き(Bottoming)しているのを発見した。ストック肉厚よりフロントAction screwの方が1.0mmも長いのだ。機関部フロントネジを締め付けるとネジ先端が銃身に底突きしているのが判る。機関部を締め付ける2本ネジの内、後部アクション screwは問題なかった。機関部後部ネジを緩め、フロントAction screwを締め付ける。そしてBarreled Actionを揺さぶる。すると、締めた筈なのにストックの中でバレルドアクションは、上下左右にグルグル動く。これダメでしょう。こんなんじゃ、絶対に当たらない。本当に、あり得ない作りだった。戦前から営々と続く巨人アンシュッツが、こんなミスを犯すとは…信じられない作りだった。

ここまで始終を真剣にご覧になっていたご本人様は…「なに、この作り、酷すぎる。これじゃスイス製に乗り換えるわけですね。近年、アンシュッツ社は、自社工場でのストック製作を辞めました。ストックをオーストリアの下請け工場にブン投げる。だから駄目なんです。ストックも自社で作らなければ完璧な作りにならないでしょう。これじゃ当たらない筈です。どうかプロにベディングをお願いします。当たるように調整して下さい」…との事だった。
………………………………

私はM70 Pre-64カスタムやSAKO L57カスタム、Wetherby Vanguardカスタム等の製作で忙しい。その為、Anschütz 54.30のベディング完成まで1カ月半の猶予を頂くことにした。

Anschütz 54.30のベディングプレートはペーパーガスケットが敷いてある。ガスケットを丁寧に剥がすと、アルミストックの中央は巨大な空洞が姿を表す。なんじゃコリャの作り。ヨクこんな作りで平気なんだと思う。打ち込まれた5mm ピンのリコイルラグをストック裏側からポンチで軽く叩こうとした。まったく力を入れず指で押すと、ポロッと抜けてしまった。リコイルラグは、グラグラ状態だったのだ。こんなんじゃリコイルラグで反動を受ける役目はしないでしょう。

Anschütz 54.30のリコイルラグは、6al4v titaniumで製作することにした。現在、6al4v titaniumは、日本全国で奪い合い状態が続いている。6al4v titaniumは、生産以上に需要が急増した為、入手するのに、とても苦労する。この事を、航空機部品製造会社に勤める次男に話すと「6al4v titaniumは、三菱MRJやF35ライトニングの生産に大量に持っていかれるので品不足になっているよ」と説明された。

6al4v titaniumで製作したリコイルラグは、プレサイスストックのアルミ底部に嵌合させ、更に接着してステンレス皿ネジで固定した。更に、6al4v titaniumリコイルラグの上からDevconでベディングする。10mm厚のDevconが覆うので硬化後、6al4v titaniumリコイルラグはビクとも動かない。アンシュッツ 5mmピンと比較して、6al4v titaniumリコイルラグは強度剛性も数倍高く、折れず曲がらず腐らない。6al4v titaniumリコイルラグは最強なのだ。

キングクラフトのベディング加工(Bedding processing)は、2回行なう。1回目に銃身の方向性を出すbarrelベディング。2回目が本格的なActionベディング。このように丁寧に2回ベディングすれば、水平垂直でバレルドアクションは、ストックに乗る。

完成したベディングは、10000分の1mmの高剛性密着を示した。1度ベディングすれば、10年、20年、30年と半永久的に使える。アンシュッツのガスケット(bedding plate)は、本来なら毎年、交換しなければ経年劣化で使えない。それを考えれば、ベディングの費用対効果はとても安いと思う。

ライフル射撃は道具を使うスポーツ。自分のライフルが現状どうなのか? 7項目検査を実施すれば状態はわかる。ここにご紹介したアンシュッツ54.30の場合、バレルドアクションは極上の完成度だった。にも関わらず、ストック精度は全然ダメでしょうのレベル。こんな状態で試合に出場しても何の意味も無い。ライフルの状態を知らずに、高価なテネックスを買って来て、マッチやクラブと変わらないと嘆く選手は、あんがい多い。このような選手は、いちど本格的なライフル検査をお勧めする。毎日射撃する選手、新品ライフルを長年愛用したが点数はいっこうに上がらない選手。このような選手は、ライフル診断と処方次第で、今以上に点数は上がると思うのだが…。

以上、

f:id:tascoTitan:20191025153714j:plain

これはActionベディングを行なう前の写真。キングクラフトでは、ベディング加工は2回実施する。1回目はBarrelベディング。2回目はActionベディング。アンシュッツのガスケット(Bedding plate)を剥がすと巨大な空洞が見える。6al4v titaniumはアルミ部材に嵌合させ、接着後、皿ネジで固定した。6al4v titaniumの上に10mm厚のDevconが覆う。Devcon硬化後、リコイルラグは微動だにしない。」

 

f:id:tascoTitan:20191025153835j:plain

完成したANS54.30のDevcon bedding。Devconは金属硬化なので変形がない。Devconは軽いトルクで極小グルーピングになる。アルミストックはトルクを強く掛け過ぎるとフライヤーが多くなる。リコイルラグは6al4v titaniumで製作した。6al4v titaniumリコイルラグは、折れず、曲がらず、腐らない。最強のリコイルラグ。」

                                       

いつも勉強させていただいています。

ストックのネジ1本で、ストックの作りの良否で、ナショナルチーム代表選手が使う最高レベルの競技銃の命中精度がガタ落ちになってしまう!

肝に銘じておきます。

 

ナカヤさんのウッドストックの組付けでは、後方のネジが「底付き」するケースがおおいですね。ネジの頭を少し削っています。